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大阪地方裁判所 昭和27年(行)1号 判決

原告 岩井尊文

被告 大阪市北区長

一、主  文

原告の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

第一、原告の請求の趣旨及びその主張

一、請求の趣旨

(一)、左記固定資産税の賦課処分はこれを取消す。

徴税令書第三七五号

納税者 奈良市春日野町四、岩井尊文

昭和二十六年度第四期、市税固定資産税

税額二千百二十円

納期限昭和二十六年十二月二十七日限り

固定資産税決定の明細

課税標準額

土地、仮決定三十七万八千六百円

本決定四十一万六千四百七十円

税率百分の一、六

年税額 仮決定六千五十円

本決定六千六百六十円

増六百十円

昭和二十六年度仮決定第四期分 千五百十円

差引納付額二千百二十円

日附昭和二十六年十二月十日

発令者大阪市北区長

(二)、被告は原告に対し金六千六百六十円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日から支払済まで年五分の割合による金員を支払うこと。

二、請求の原因

(一)、原告は従前大阪市北区真砂町四十八番地において宅地三十二坪八合二勺を所有し、これを昭和二十六年二月五日訴外大和ゴム株式会社に譲渡し、同月十日その所有権移転登記を完了した。

(二)、ところが、被告は原告に対し右土地に対する昭和二十六年度第四期の固定資産税として同年十二月十日附請求の趣旨(一)記載のような徴税令書を発し、同令書は同月十三日原告に到達したが、右賦課処分には次に記載のような違法があると思料したので、原告は即日被告に対し異議を申立てたが、被告は右異議に対し今日まで何等の決定もしない。

(三)、原告が右賦課処分に違法があると主張するのは次の通りである。即ち、固定資産税は固定資産の所有者に課すべきものであること地方税法第三百四十三条の明定するところであり、しかもその所謂所有者とは現にその固定資産を所有する者の意に解すべきこと殆んど疑をいれない。同法がその第三百八十条以下において固定資産課税台帳の制度を設け、同台帳に固定資産の所有者の記載を為さしむると共に、その変更に伴う訂正を命じているのは、固定資産税を以て固定資産の現所有者に課すべきものとの考えを示すものであり、また旧地方税法第三百四十四条以下において固定資産税を使用者に課する場合につき、明かにその使用の月割に従つてこれを課すべきものとしていることは、所有者についてもその現在の所有者を被課税者とする同法の考え方を示すものである。従つて同法第三百五十九条に固定資産税の賦課期日を当該年度の初日の属する年の一月一日としているのは、一般の常例に従つての原則的規定であり、その後に所有者に移動があつた場合にも常に一月一日現在の所有者に課税すべしとした絶対的規定と解すべきものではない。若しこれを然らずとすれば一月一日の後に所有権を取得した者はその年度内所有権を有するに拘らず固定資産税の負担を免るるの不当な結果となり、また所有権譲渡者は多く所有権譲受者に比し担税能力の少いのを通常とするのに、所有権なくしてなお課税せらるるの結果、課税者たる地方団体の利益も亦害せらるるの結果とならう。以上の理由により固定資産税はその固定資産の現在の所有者に課せらるべきものであつて、従つて本件土地に対する固定資産税はその各納期当時の所有者に課せらるべきであり、四月以後を納期とする昭和二十六年度固定資産税は同年二月に所有権を喪失した原告に課せらるべきものではない。そうすれば被告が同年十二月十日附を以てした前記固定資産税の賦課処分はその被課税者を誤つた違法な処分であつて、当然無効であるか少くとも取消を免れない。よつてこれが取消を求める。

(四)、原告は右第四期分の外被告より右土地につき昭和二十六年度第二、三期分の固定資産税として合計金六千六百六十円の賦課を受け、既に右金員はこれを納付済である。しかし右賦課処分亦前記のような違法があり、右違法な賦課処分に基いて納付した右金員は当然返還せらるべきものと思料するので、右金員及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日から支払済に至るまで年五分の割合による損害金の支払を求める。

三、被告の答弁に対する原告の主張

原告が被告主張の頃その主張のような昭和二十六年六月一日附の徴税令書を受領したことはこれを認める。しかし、(1)本件課税処分は被課税者を誤つており当然無効の行政処分であるから出訴期間の制限には服しない。(2)仮に然らずとするも本件固定資産税にあつては第一期の徴税令書による賦課は仮決定であつて、まだ終局的の決定ではない。納税者の終局的な納税義務が確定するのはその本決定によるものであつて、仮決定に対し異議及び行政訴訟ができるとしても、これが為めに本決定に対する異議及び行政訴訟をする権利がなくなるものではない。本件訴訟はこの本決定に対するものであつて、その徴税令書受領の即日異議の申立をし、これに対し一ケ月内に何等の決定がなされなかつた為めに直ちに本件訴訟に及んだものであるから何等出訴期間を徒過したものということはできない。

第二、被告の答弁の趣旨及びその主張

一、本案前の答弁

(一)、答弁の趣旨

原告の訴はこれを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

(二)、答弁の事由

(1) 原告の本訴は、被告の原告に対する第四期固定資産税の賦課処分の取消を求めるものであるが、固定資産税の賦課に違法又は錯誤があると認める場合においては、徴税令書の交付を受けた日(納期を分けた場合においては、第一期分の徴税令書の交付を受けた日)から三十日以内に市町村長に異議の申立をすることができ、その異議の決定に対し不服がある者は、その決定の通知を受けた日から三十日以内に道府県知事に訴願し、又は裁判所に出訴することができるものであること、地方税法第三百七十条の規定するところであつて、本件固定資産税にあつては被告は昭和二十六年六月一日附同年度分の仮算定税額と各納期及び第一期乃至第三期の納付額を記載した徴税令書を同日原告に宛て発送し、同令書は遅くとも同月五日には原告に到達しているのであるから、原告が右賦課処分のあつたことを知つた日から起算して本訴提起までには既に七ケ月余を経過しており、右第三百七十条所定の出訴期間を徒過していること明かであるから、本訴は不適法としてこれを却下すべきである。

(2) なお本件固定資産税にあつては前三期の納期においては仮算定税額を徴収し、その最終納期(第四期)において本算定税額との清算を行つたものであることはこれを認めるが、これは昭和二十六年六月一日附の昭和二十六度固定資産税の賦課処分における税額が右清算の行われるまでは確定的のものではないにとどまり、原告の本件土地に対する昭和二十六年度分固定資産税の納付義務は地方税法第三百四十三条第一、二項、第三百五十九条の規定により昭和二十六年一月一日を以て法律上当然発生し、同年六月一日附徴税令書の受領によりその義務は具体化されているのであるから、原告主張のように本算定税額が決定されるまでは原告の納税義務が確定しないというものではない。

二、本案の答弁

(一)、答弁の趣旨

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

(二)、答弁の事由

原告主張事実中請求の原因(一)及び(二)記載の事実はこれを認めるが、その余の事実はこれを争う。

原告は昭和二十六年二月四日までは本件固定資産税賦課の対象である土地の所有者であつたが、同年二月五日これを第三者に譲渡し、同日以降は所有者ではないのであるから、昭和二十六年度の固定資産税の全額を課税されることは不当且つ違法であると主張するのであるが、この主張は誤つている。即ち固定資産税は地方税法第三百四十三条第一、二項の規定によつて、固定資産の所有者で、固定資産たる土地にあつては土地台帳若しくは土地補充課税台帳に登録されている者に対し、同法第三百五十九条の規定によつて当該年度の初日の属する年の一月一日を賦課期日とし、納税義務者を確定することになつている。そして固定資産税は年税であつて、一月一日現在の所有者が当該年度の固定資産税の納付義務を負担するものである。同法第三百六十二条、第三百六十三条、大阪市税条例第六十条、第六十一条に規定する納期は単に納税者の納税上の便宜を考えたもので、固定資産税を期税とする趣旨のものではない。以上の通りであるから、原告が昭和二十六年二月になつて本件土地の所有権を失つたからといつて、同年度の固定資産税の賦課を免れることはできないのであり、これを賦課した被告の処分には何等の違法もないので原告の請求は失当である。

第三、証拠<省略>

三、理  由

一、本案前の答弁に対する判断

固定資産税にあつては、被告主張の通り、その賦課を受けた者がその賦課に違法又は錯誤があると認める場合にあつては、徴税令書の交付を受けた日(納期を分けた場合においては、第一期分の徴税令書の交付を受けた日)から三十日以内に市町村長に異議の申立をすることができ、右異議の決定に不服がある者は、その決定の通知を受けた日から三十日以内に、道府県知事に訴願し、又は裁判所に出訴することができるものであること、地方税法第三百七十条の規定に徴し明かなところであり、本件原告に対する昭和二十六年度固定資産税の仮算定税額と各納期及び第一期乃至第三期の納付額を記載した徴税令書が昭和二十六年六月一日附を以て発せられ、遅くとも同月五日までには原告に到達したことは当事者間に争いのないところであつて、原告が右賦課処分に対し異議の申立をせず、同年十二月十日附を以てせられた第四期の徴税令書の交付を受くるに及んで初めてその課税処分に異議を申立て、次いで本件出訴に及んだものであること本件口頭弁論の全趣旨に徴し明かである。

そこで若し右第三百七十条の趣旨を、固定資産税の賦課に対する不服は、全一年分に対し、納期を分けた場合においては、第一期分の徴税令書の交付を受けた日から三十日内に異議の申立をし、異議の決定になお不服であれば、その決定の通知を受けた日から三十日内に訴願又は出訴するの方法によつてのみその不服の申立を許されるものと解すべきものとすれば、原告の本訴請求は昭和二十六年度第四期分の徴収令書の交付による固定資産税の賦課処分の取消を求めるものであつても、同年度の固定資産税の賦課処分に対する取消訴訟(原告は本件のような被課税者を誤つた課税処分は当然無効であると主張するが、右主張は到底これを容認することはできない。)としては、右昭和二十六年六月一日附の徴税令書の交付による課税処分に対し異議の申立をしなかつたことにより訴願前置の道を踏まず、(前記第四期分の徴税令書に対する異議は第四期分に対するものであり、右昭和二十六年六月一日附徴税令書に対するものではない。仮にこれを両者に対するものと解するとしても、これは後者に対するものとしては異議申立期間を徒過した不適法な異議ということにあろう。)また右昭和二十六年六月一日附の徴税令書交付の日から起算し、本訴提出(昭和二十七年一月十四日の提起であること本件記録により明白)までには既に七ケ月余を経過し、出訴期間経過後の訴と認めざるを得ないことであろう。

しかし、右第三百七十条の規定も、納期を分けた場合につき、第二期分以後の課税処分がそれ自体瑕疵を有する場合にも、なおこれに対する不服の道を閉したものとは到底これを解することはできないのであつて、若し第二期分以後の課税処分自体に違法又は錯誤の存する場合には、明文上これに対する異議又は訴願の方法が認められないものとして直ちに出訴するを得るものと解するか、少くとも右第三百七十条の規定に準じ異議の申立をした上で出訴できるものと解するのが相当である。今これを本件についてみるのに、本件昭和二十六年度固定資産税にあつては、その第一期乃至第三期分は仮算定税額によりこれを徴収し、その第四期分において本算定税額との清算をすべきものであること地方税法第三百六十四条の定めるところであり、また現に本件原告に対する課税処分も右の方法により第一期乃至第三期の徴税は仮算定税額により昭和二十六年六月一日附の徴税令書を以てこれを賦課し、その第四期分において本算定税額により仮決定額との差額を清算の上同年十二月十日附第四期の徴収令書を発してこれを賦課したものであること成立に争のない乙第四号証の一、二によりこれを認めるに足るのであつて、右賦課の態様からすれば右昭和二十六年六月一日附の徴税令書に全一年分の仮算定税額の記載がされているにしても、本決定に基く第四期分の徴税は第一期乃至第三期の徴税とは別にその賦課がせられたものと解するのを相当とし、その本決定による課税処分は右第四期の徴税令書により初めてせられたものであるから、右本決定による課税処分自体に不服がある場合には、右第四期の徴税令書交附の日を規準とし、異議訴願又は出訴をすることが許されるものと解するのが相当である。そして原告は本訴において右本決定に基く第四期分の課税処分の取消を求めるものであり、その課税処分に対しては徴税令書交附の即日直ちに異議の申立をし、これに対し今日まで何等の決定のないものであること本件当事者間に争いのないところであるから、原告の本訴は訴願前置の点においても、出訴期間の点においても何等の不適法もないのであり、被告のこの点に関する主張はこれを採用することはできない。

二、本案についての判断

(一)、原告主張の請求原因(一)(二)の事実は当事者間に争いのないところであつて、問題は地方税法第三百五十九条の解釈如何にある。原告はこの点につき右第三百五十九条に固定資産税の賦課期日を当該年度の初日の属する年の一月一日としているのは、一般の常例に従つての原則的規定に過ぎず、その後に所有者に移動があればその移動に従つて課税するのが相当であると主張するのであるが、右規定は固定資産税を以て年税とし、当該年度の初日の属する年の一月一日において、同法第三百四十三条第二項の規定により所有者とせられる者を以てその納税義務者と確定し、爾後所有者に変動があり、従つて又土地台帳若しくは土地補充課税台帳に登録されている者に変動があつても、当該年度内の納税義務者には変更を生ぜしめない趣旨のものと解するのが相当である。そして右解釈からすれば、或いは所有権なくして課税せられ、或いは所有者にして課税せられない者を生ずる不公平はこれを免れないが、右規定の趣旨は旧地方税法(昭和二十三年法律第百十号)第五十三条、第五十八条、第十条第一、二項以来これを踏襲しているものと解すべきであり、一に徴税の簡便を計り、以て税収入の確保と徴税費用の節減とを期した已むを得ない制度としてこれを是認するの外はないものであつて、原告の引用の各規定からしても右解釈を左右することはできない。

従つて本件土地につき昭和二十六年二月まで所有者であり、土地台帳に登録せられていた原告は、その後右土地の所有権を失つたからといつて、昭和二十六年度固定資産税の納付義務を免れることはできないのであるから、被告が原告に対し同年十二月十日附を以て同年度第四期分固定資産税の賦課処分をしたのは適法であつて、これを当然無効の処分というを得ないのは勿論、またこれを取消すべき何等の違法もないものといわなければならない。

(二)、なお原告は原告に対する昭和二十六年度第二、三期分の固定資産税の賦課が違法であるとして、被告に対しその納付済の金員の返還を求めているが、固定資産税は市税であつてその納付金の帰属者は大阪市であり、被告はただ市長の委任に基きその賦課徴収の事務を掌つているに過ぎないものと認められるので、その納付金の返還を被告に求めるのは失当であるだけでなく、右(一)において説明した通り原告に対する昭和二十六年度固定資産税の賦課には何等の違法もないのであるから、右原告の請求はこの意味においても亦失当たるを免れない。

三、結論

右理由により原告の本訴請求は全部失当であるからこれを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し、主文の通り判決する。

(裁判官 山下朝一 石沢三千雄 岩崎康夫)

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